現代は誰もが認めるオムライス混迷の時代。
単に「オムライスが好き」といっても、
一般的に女性が好むといわれている※1「ふわふわとろとろのオムライス」もあれば、
元来オーソドックスとされている「フットボール型の卵層が薄いオムライス」もあります。
また、近代においては、
デミグラスソースやホワイトソースに代表される「ソースの多様化問題※2」や
メガ盛りブームに代表される「卵で巻けない問題※3」、
オムライスの量産化による「中のライスが白米問題※4」や
オムライスのルーツすら揺るがしかねない「天津飯はオムライスか問題※5」など、
オムライスを取り巻く社会状況は決して順風満帆なものではありませんでした。
われわれは、オムライスの多様化に対して、
オムライスをオムライス分だけ表現しうる言語を持ち合わせていません。
こんなにも味も触感も形状も異なる食べ物が、
おなじ "オムライス" と評されることに、
人類はまったく違和感を持たない。
そのことそのものが「オムライスの奇跡※6」でもあります。
オムライスはそもそも日本で生まれた洋食です。
それでいて、
オムライスのオムはフランス語の「omeletteまたはomelet」※7、
ライスは英語の「rice」を合わせた和製仏英語で例えられる日本固有の食べ物です。
この日本で生まれた
世界を代表する近代料理であるオムライスに敬意を払い、
混迷するオムライス社会の健全な発展を願って、
オムライス研究所をここに設立いたします。
オムライスが
たまご、ごはん、ソース、具で織り成す、
重厚な味と食感のハーモニーであるように、
オムライスの研究も決して一様には成し得ません。
そこで当研究所では、
【第一研究課題】
・オムライス指標によるオムライス一般化の研究
→ オムライスの指標化により好みのオムライスを的確に表現できる言語を持つ
ための研究
【第二研究課題】
・オムライスの分類研究
→ 地形学からみたオムライスの形状について、成型過程および提供形態から分
類を行うための研究
【第三研究課題】
・国内のオムライス分布
→ 一般化された各種オムライスがどこに分布しているかの地図の作成実験
【第四研究課題】
・オムライスの好み/食べ方から実地検証されるオムライス臨床心理学
→ オムライスの好みやテンションの上がり下がりから導かれる人間心理の研究
【第五研究課題】
・オムライスを取り巻くオムライスの社会学
→ オムライスの社会問題について、研究者としての視点で捉え、解決するため
の研究
【第六研究課題】
・オムライスの栄養学
→ オムライスの内部構造を栄養レベルまで掘り下げるミクロオムライス学
【第七研究課題】
・オムライスの歴史学
→ オムライスの発祥および起源や発展過程についての学術研究
以上7つのアプローチを通じて、
「オムライスが好き」というシンプルな感動を、
理論的な裏付けを基に解明して参りたいと思います。
そして、
オムライスが多様なオムライスを受けいれているように、
ケチャップライスを卵がやさしく包んでいるように、
賛同する研修者の方々を幅広く受け入れたいと思います。
所長:渥美 英紀
※1「一般に女性はふわとろのオムライスが好き」
渥美が2009年に7名の実地調査で5名の女性がふわとろのオムライスが好き
と回答を得た研究成果発表より、女性の71.4%はふわとろのオムライスが好
きだといわれている。一方男性の場合、6名のうち2名と33%がふわとろのオ
ムライスを好むことが分かり嗜好に有意な差がみられた。
※2「ソースの多様化問題」
1970年代まではケチャップが一般的であったが、食の欧米化やハッシュド
ビーフの市民権の獲得を背景に、多様なソースをかける潮流が現代も続いている。
※3「卵で巻けない問題」
オムライスをメガ盛りにしようとすると、フライパンのキャパシティの問題から
コンロ上で卵を巻くことができない。そのため、一旦皿に盛ったケチャップライ
スの上に薄く焼いた卵をのせ、それをオムライスだとする問題。同形状は日本テ
ラ盛り学会の研究により、ペジオニーテ型(溶岩台地型)と学名がつけられている。
※4「中のライスが白米問題」
オムライスの支持拡大に伴い、オムライス専用レストランなどが林立している
が、量産化やコストダウンなどの工業化を進めるあまり、中のライスを炒めたケ
チャップではなく「ケチャップで炊いたピラフ」や「白米」で代用する社会問
題。卵を割った時に白米が出てくるとテンションが82%落ちるという臨床結果
から、白米を包むオムライスははたしてオムライスと呼ぶにふさわしいか、とい
うオムライスのアイデンティティを問う問題として今も議論を呼んでいる。
※5「天津飯はオムライスか問題」
オムライスの量産化による白米問題とソースの多様化に伴って、オムライスの概
念が拡大している。広義でオムライスを捉えた場合、材料および成型過程が
87%以上類似している天津飯はオムライス読んでもよいのではないか、という
論者が現れたが、支持を伸ばすことはできなかった。
※6「オムライスの奇跡」
チーズハンバーグや煮込みハンバーグなど多様性を容認することで有名な"ハン
バーグ"ですらキャベツで巻いただけでロールキャベツとして別メニューとして
学術的には類型される。また、衣をつけてあげればミンチカツとなり、さらにゆ
でたまごを入れればスコッチエッグとして分類される。料理名がどこまでの料理
を容認するか、という論点に対してハンバーグに比べ、ラーメンやオムライスは
広範囲な材料と形状に対して、同じ学名を持つ。このことからオムライス学会で
はその存在そのものが奇跡だと評されることが多い。
※7「オムは「omeletteまたはomelet」
つまり、厳密なスペルは「omurice」ではなく「omerice」。「omurice」という
表記を見たらモグリだと思うとよい。問う研究所のドメインももちろんomerice
である。
図1)オムライス指標によるオムライス一般化の研究
図2)オムライスの分類研究